【事例で解説】「高所作業で点検できない」と言われた消防設備、あきらめる前に知ってほしい解決策 

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天井が高い倉庫や工場、開放的な吹き抜けを持つ施設。こうした建物の維持管理は、ご担当者様を悩ませる課題の一つです。特に、人々の安全を守るために不可欠な消防設備のメンテナンスは、法令で定められた重要な義務でありながら、設置場所の高さが原因で、一筋縄ではいかないケースが少なくありません。


消防設備の定期点検が近づき、いつも通り専門業者に見積もりを依頼したとします。担当者が現地調査に訪れ、天井を見上げながら一言、「申し訳ありません。この高さでの作業は、弊社では対応できかねます」。そんな予期せぬ返答に、言葉を失ってしまったご経験はないでしょうか。


頼りにしていた専門業者から断られてしまえば、「一体どこに頼めばいいのか」「このまま放置していいのだろうか」と途方に暮れてしまうのも無理はありません。消防設備は、万が一の火災の際に正常に作動しなければ意味がありません。点検や更新ができない状態が続くことは、法令上の問題はもちろん、施設を利用する人々の安全を脅かす重大なリスクに繋がります。


しかし、あきらめるのはまだ早いかもしれません。なぜ、専門業者でさえ「できない」と判断することがあるのでしょうか。そして、その困難な状況を乗り越える方法はあるのでしょうか。この記事では、高所での消防設備に関するお悩みを解決するヒントを、具体的な事例とともにお届けします。




プロが「できない」と判断する3つの理由

専門業者から作業を断られると、「プロなのになぜ?」と感じてしまうかもしれません。しかし、彼らが「できない」と判断する背景には、単なる技術や経験不足ではなく、明確で現実的な理由が存在します。その主な理由を理解することが、解決策を探る第一歩となります。



理由1:作業員の安全を確保できない

最大の理由は、作業員の安全を確保するのが難しい点です。高さが10メートルを超えるような場所では、一般的な脚立や移動式足場(ローリングタワー)では到底届きません。一方、本格的な仮設足場を組むには、床が平らで十分な強度があることが大前提です。床面が不安定であったり、プールのように足場を設置する場所自体がなかったりすれば、安全な作業環境を整えることは不可能です。命綱となる安全帯をかける場所すらない、というケースも珍しくありません。いかなるプロフェッショナルも、安全が保証されない作業を引き受けることはできません。



理由2:特殊な機材や技術が求められる

高所作業には、特別な車両や機材が必要になることが多くあります。例えば、屋内に高所作業車を入れようとしても、入口の広さや床の耐荷重が問題で搬入できないことは珍しくありません。また、ロープを使って壁面を昇降する「ロープアクセス」といった特殊技術もありますが、これには高度な訓練を受けた有資格者が必要です。すべての消防設備業者が、こうした特殊な機材を保有していたり、専門技術者が在籍していたりするわけではないのが実情です。



理由3:準備にかかる費用と時間が見合わない

仮に、大規模な足場を組めば作業自体は可能だとしても、その準備にかかる費用と時間が現実的でない場合があります。足場の設置・解体だけで、規模によっては数十万円から数百万円の費用が発生し、消防設備の交換費用そのものよりはるかに高額になってしまうのです。また、足場の組み立てに数日を要する場合、その間は施設の営業を止めなければならず、施設側にとって大きな負担となります。こうした費用対効果の問題から、依頼を受けること自体が難しいと判断されるケースもあります。




【ケーススタディ】プール施設の高所作業。私たちが乗り越えた課題

ここからは、実際の事例をご紹介します。あるスポーツジムに併設する室内温水プールの天井に設置された、火災感知器の交換工事です。この現場には、これまで見てきたような「高所作業を困難にする要因」が複数ありました。


この施設では、設置から年数が経過した感知器の誤作動が頻発しており、早急な交換が求められていました。しかし、天井高は約10メートル。いくつかの業者が現地調査に訪れたものの、最終的には「対応は難しい」と断られてしまったそうです。私たちが直面した具体的な課題は、以下の3点でした。



課題1:足場を組めない水上の高所

最大の難関は、作業場所の真下がプールだったことです。当然ながら、水面に足場は組めません。プールの水をすべて抜くという選択肢も、膨大な時間とコストがかかるため非現実的です。天井の構造上、安全帯を固定する場所を見つけるのも難しく、作業員の安全をどう確保するかが極めて重要な課題となりました。万が一、工具や部品を水中に落とせば、施設の設備を傷つけるといった二次被害のリスクも懸念されました。



課題2:湿気と腐食のリスク

室内温水プールは常に湿度が高く、水を清潔に保つための塩素が空気中に含まれています。このような特殊な環境は、電子機器である火災感知器や作業機材にとって非常に過酷です。金属部品は錆びやすく、通常の機材では劣化が早まる可能性があります。交換する感知器も、この環境に耐えうる高い防水性・耐湿性を持つ製品を選定する必要がありました。



課題3:施設の営業への配慮

スポーツジムは、会員様が利用されるため、営業スケジュールへの配慮が不可欠です。大規模な工事のために長期間休館することはできません。私たちに与えられた時間は、施設の休館日である、ごく限られた一日だけ。その短い時間内に、安全対策、機材の搬入、交換作業、そして撤収まで、すべての工程を完了させる必要がありました。




未来を見据えた、根本解決へのアプローチ

目の前に立ちはだかる、湿気、高さ、そして水面という三重苦。私たちは、単に今回の交換作業をこなすだけでなく、お客様が将来にわたって抱えるであろうメンテナンスの課題を根本から解決することを目指し、「どうすれば安全かつ効率的で、未来につながる仕事ができるか」という視点で解決策の検討を始めました。



解決策1:「移動式足場」による柔軟な作業計画

まず、最大の課題であった「水上の高所」を攻略するため、軽量なアルミ製の「移動式足場」を採用しました。この足場は、限られたスペースでも人力で組み立て・解体ができ、キャスターでプールサイドを自由に移動させることができます。


プールの水を抜くことなく、休館日という一日の中で、複数の感知器の位置に合わせて効率的に足場を移動させながら作業を進める計画を立案。これにより、安全性・作業効率・コストという課題を同時にクリアしました。



解決策2:未来のメンテナンスを劇的に変える

「点検口の新設」 ヒアリングを重ねる中で、お客様がこれまでも点検のたびに業者探しに苦労され、メンテナンスに高いコストがかかっていたことが分かりました。そこで私たちは、感知器を交換するだけでなく、天井裏にアクセスするための「点検口」を新たに設置することを提案しました。この提案は、目先の工事だけを考えれば余分なコストに見えるかもしれません。


しかし、将来の点検やメンテナンスの際には、この点検口から天井裏に直接アクセスできるようになります。これにより、大掛かりな足場を組む必要がなくなり、メンテナンスのコストと時間を劇的に削減できるのです。これは、今回の問題を解決するだけでなく、お客様の10年後、20年後を見据え、施設の維持管理そのものを最適化するための提案でした。



解決策3:環境に適した部材の選定と「段取り八分」の徹底

もちろん、基本的な作業も抜かりなく行います。プール特有の環境を考慮し、防水・防湿性能に優れた感知器を選定。配線接続部の防水処理も丁寧に行いました。また、限られた時間内にすべての作業を完了させるため、必要な工具や部材をリスト化し、作業員一人ひとりの役割と手順を明確にした工程表を共有。

「段取り八分」を徹底し、スムーズかつ安全に全作業を完了させ、施設の営業に一切影響を与えることなく引き渡しができました。




「できます」の言葉の信頼性を見抜く、3つのチェックポイント

今回の事例は特殊なケースかもしれませんが、ここから得られる教訓は、高所での消防設備メンテナンスに悩むすべての施設管理者様にとって、業者選びの重要なヒントとなるはずです。担当者の「できます」という言葉を鵜呑みにせず、その裏側にある専門性や信頼性を見抜くために、以下の3点を確認することをお勧めします。



チェックポイント1:豊富な実績、特に類似環境での実績があるか

まず確認したいのが、その業者がこれまでどのような現場を手がけてきたか、という「実績」です。単に「高所作業の実績があります」というだけでなく、できれば自社の施設と似た環境での実績があるかを確認しましょう。例えば、同じように天井が高い工場や倉庫、湿度の高い食品工場やクリーンルームなど、類似した困難な現場を経験している業者なら、想定外のトラブルにも対応できるノウハウを蓄積している可能性が高いと言えます。



チェックポイント2:現地調査の質と提案の具体性

良い業者は、契約を急がせることはありません。まず丁寧な現地調査を行い、課題を正確に把握することに時間をかけます。そして、その課題に対し「なぜこの方法が最適なのか」「安全はどのように確保するのか」といった点を、専門用語を多用せず分かりやすく説明してくれるはずです。具体的な解決策を論理的に示してくれるか、そして目先の工事だけでなく、「点検口の新設」のように、長期的な運用まで見据えた本質的な提案をしてくれるかどうかが、信頼性を見極める重要な基準になります。



チェックポイント3:安全管理体制の明確さ

高所作業において、最も優先されるべきは安全です。信頼できる業者は、安全管理体制について明確な基準を持っています。見積もりや提案の段階で、「作業員の安全教育はどのように行っていますか」「現場での安全管理計画書はありますか」といった質問を投げかけてみましょう。こうした問いに対し、具体的な資料を示しながら明確に回答できる業者は、安全への意識が高いと判断できるでしょう。安全を重視する姿勢は、そのまま仕事の品質にもつながります。


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あきらめていた高所の消防設備、専門家なら解決できるかもしれません

「高すぎて点検できない」「構造が特殊で交換できない」。専門業者からそう告げられ、対策を先送りにしている消防設備はございませんか。この記事でご紹介したように、一見すると不可能に思える難易度の高い作業も、正しい知識と技術、そして「お客様の未来の負担をどうすれば軽くできるか」を考える姿勢があれば、解決の道は開けます。


消防設備は、そこにいる人々の命と財産を守るための最後の砦です。その設備が、いざという時に機能しない状態は、決して見過ごすことができる問題ではありません。法令遵守という観点だけでなく、施設の安全責任者として、また、事業を継続していく上のリスク管理として、解決に向けた一歩を踏み出すことが今、求められています。


もちろん、すべての問題がすぐに解決するわけではないかもしれません。しかし、「できない」とあきらめてしまう前に、まずは別の視点を持つ専門家に相談してみる価値は十分にあります。自社では思いもよらなかった解決策や、長期的な視点でのコスト削減につながる提案が見つかる可能性もあります。


今回ご紹介した事例は、数ある現場の一つに過ぎません。しかし、どのような困難な現場であっても、解決の糸口は必ずどこかにあります。私たちはそう信じ、一つひとつの課題と真摯に向き合っています。もし、あなたが今まさに同様のお悩みで立ち止まっているのであれば、ぜひ一度、その状況をお聞かせください。あきらめるのは、それからでも決して遅くはありません。


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