テナントごとに消防設備点検は本当に不要?点検義務の範囲とオーナーの責任

点検はテナント任せでOK?オーナーが見落としがちな落とし穴

「消防設備の点検はテナントの責任だろう」と思い込んでいませんか?

実はこの認識が、立入検査での是正指導や高額な改修費につながる“落とし穴”となることがあります。


たとえば、中規模のテナントビルで共用部の点検を怠っていた結果、オーナーに約70万円の是正工事費が請求されたケースがありました。

本人は「テナントが対応していると思っていた」と話しており、完全に“他人事”になっていたのです。


こうした誤解は、決して珍しいものではありません。


✔︎ 共用部と専有部の責任範囲を正しく把握していない

✔︎ 点検記録が提出されていないことに気づいていない

✔︎ 「うちは対象外」と思い込んで立入検査の準備をしていない


責任の所在を曖昧にしたまま放置していると、ある日突然、是正命令や営業停止の通知が届く可能性もあります。

まずは「本当に任せて大丈夫なのか?」という視点で、自分の物件の点検体制を見直すことが第一歩です。




知らないと大変!ビルオーナーが負う法的責任と消防設備点検の範囲

消防法では、建物の所有者(オーナー)に対して、消防設備の設置・点検・報告の義務が課せられています(消防法施行規則第3条の3)。

「テナントに任せている」と思っていても、オーナー自身が法的責任を免れることはできません。


まず理解しておきたいのが、点検対象の区分です。建物内の「共用部分」と「専有部分」では、責任の所在が異なります。



【共用部分:オーナー責任】

階段、廊下、エントランス、駐車場などに設置された誘導灯、自動火災報知設備、消火器などの消防設備は、明確にオーナー側の責任です。

これらは「防火対象物全体の安全確保」に関わるため、契約状況にかかわらず、オーナーが管理・点検する必要があります。



【専有部分:契約に基づくテナント責任】

一方、店舗や事務所内部などの専有部分については、賃貸借契約書の条文により責任分担が定められていることが多く、点検実施者はケースバイケースです。

しかし、現実には「契約書に明記されていない」「曖昧な条文が残っている」まま運用されていることも少なくありません。


特に注意すべきなのが、小規模ビルやテナント入れ替えの多い複合施設です。

点検責任の境界が曖昧になりやすく、さらにテナント側に点検実施能力がない場合、点検が未実施のまま放置されるリスクが高まります。


消防法17条3の3では、特定防火対象物の所有者等に対して、6か月に1回以上の機器点検・1年に1回以上の総合点検と、その結果の報告義務が課されています。

(引用:消防用設備等の点検・報告について


これらを怠ると、行政からの是正指導や命令、さらには罰則の対象となることもあります。


契約書の見直しや点検体制の確認を先送りにすることで、想定外のトラブルに発展する可能性があります。

今一度、ご自身が管理する物件における「点検責任の分かれ目」を把握することが重要です。




「まさか自分が…」点検未実施で起こる経営リスクと賠償責任

消防設備の点検を怠った結果、「まさか自分がこんな目に遭うとは…」という事態は、決して珍しくありません。

実際に、立入検査や火災事故の後に慌てて対応に追われるオーナーから、こうした声を多く聞きます。


まず警戒すべきは、使用停止命令のリスクです。

消防法に違反した状態が続くと、管轄の消防署から営業停止や使用制限の措置命令が出されることがあります。

全国での発令件数は、令和4年度で85件にのぼり(※消防庁『危険物施設等定期点検結果』より)、決して稀なケースではありません。

命令が出れば、テナントの営業は止まり、オーナーの賃料収入にも直撃します。


さらに、火災保険が適用されないという深刻なリスクも存在します。

点検記録の未整備や報告義務違反があると、「管理義務違反」とみなされ、保険金の支払いが拒否される場合があります。

実際、点検不備を理由に損害補償が認められなかった判例も確認されています。


そして、事故の被害が人命に及んだ場合、オーナーが刑事責任を問われる可能性すらあります。

「単なる点検」「事務的な確認作業」と軽く見ていたことが、取り返しのつかない結果を招くのです。


その上、BCP(事業継続計画)が整っていないビルでは、火災発生後の再建に時間がかかり、空室率の上昇や資産価値の下落といった長期的な経営ダメージにもつながります。


「忙しかった」「面倒だった」という一時の判断が、数百万円単位の損失や社会的責任を生む――。

その現実を、今一度見つめ直す必要があります。




テナントと連携した、実行しやすい消防点検の進め方

「消防設備点検の重要性は理解したけれど、実際どう進めればいいのか分からない」

そんな声に応えるため、ここではビルオーナーがすぐに実践できる進め方をご紹介します。



年間スケジュールを立てる

消防設備点検には、6か月ごとの「機器点検」と、年1回の「総合点検」が必要です。

スムーズに行うためには、年度の初めに年間スケジュールを立て、各テナントへ早めに共有しておくのが効果的です。

「○月○日に点検を予定しています」と具体的な日程を伝えることで、テナント側も予定を立てやすくなります。



全館一括点検のメリット

ビル全体を一括で点検することで、以下のような利点があります:


✔︎ 点検費用の削減が期待できる

✔︎ 業者対応の窓口が一本化され、管理の手間が減る

✔︎ 報告書の管理が一元化され、確認や保管が容易になる


特に複数テナントが入居するビルでは、オーナー主導での一括点検が現実的かつ効果的です。



記録の保管とスムーズな引き継ぎ

消防法第17条の3の3では、点検結果の記録を3年間保存する義務が定められています。

ただし、不動産取引や設備更新計画の参考資料として、可能な限り長期保管するのが望ましいです。


また、テナントの入退去時は記録の引き継ぎミスが起きやすい場面です。

前テナントが点検を実施していた場合でも、新たな入居者がそれを引き継いでいないことも多いため、オーナー側でも点検記録のバックアップを持っておくと安心です。


「何から始めればいいか分からない」と感じる方も、まずはスケジュールを立てて可視化することが第一歩です。




コスト削減にもつながる!消防設備点検のスマートな管理戦略

消防設備点検は「やらなければならない義務」と捉えられがちですが、実は効率的に行えばコスト削減につながるチャンスでもあります。ここでは、オーナーとしての負担を減らしながら、より効果的な点検体制を構築する方法をご紹介します。



一括発注でコストダウン

複数の業者に依頼するよりも、一社にまとめて依頼する方が総コストは下がります。例えば、消防設備点検と建築設備点検、あるいは複数物件の点検をセットで依頼することで、スケールメリットが生まれます。


「消防設備だけでなく、電気設備や防火シャッターの点検も一緒に」というパッケージ依頼も検討の余地があります。業者側の移動コストや管理コストも削減できるため、価格交渉の材料になることも。



計画的な設備更新で長期コスト抑制

消防設備は経年劣化するもの。点検の結果、「近いうちに交換が必要」と指摘される前に、計画的な更新を行うことでコストを平準化できます。


特に誘導灯や非常灯のLED化は、電気代の削減と長寿命化でランニングコストを下げる効果があります。初期投資はかかりますが、5〜10年のスパンで見れば大きなメリットになるでしょう。



補助金・助成金の活用

自治体によっては、防災設備の更新や改修に対する補助金制度を設けているケースがあります。例えば、中小企業向けのBCP関連補助金が適用できる可能性も。


また、省エネ性能を高める設備更新であれば、環境関連の助成金が利用できることもあります。「どんな制度があるか分からない」という方は、点検業者に相談してみるのも一つの方法です。


消防設備点検は単なるコストではなく、将来的なリスク管理と資産価値の維持につながる投資です。戦略的に取り組むことで、中長期的な経営効率化にもつながります。

なお、当社では2025年度内に消防設備点検に関する自社調査レポートの公開を予定しています。より詳しい情報をお求めの方は、ぜひチェックしてください。


▶︎点検管理の見直しに関心がある方はこちら

https://www.bousai-tk.co.jp/necessity




点検の見直しは今からでも遅くない。相談から始める一歩

「長年、なんとなく点検してきただけだった」

「どこまで自分の責任か分からなかった」

こうした声は、相談をいただく中で本当によく耳にします。


たとえば加須市のA社では、点検業者を見直したことで年間コストが15%削減され、是正指導にかかる日数も半分以下に短縮されました。

点検内容の整理と業務の委託範囲を見直しただけで、負担と不安の両方が大きく軽減されたのです。


「今のやり方で本当に合っているのか?」

「契約書のどこを見ればいいのか分からない」

そんな不安がよぎったときこそ、点検体制を見直す良いタイミングかもしれません。


防災通信工業では、加須・久喜エリアを熟知したスタッフが、物件ごとの状況や契約内容にあわせた点検アドバイスを行っています。

まずは気軽な相談から、次の一歩を踏み出してみませんか?


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